Doneru についてのまとめ

概要

Doneru とは「Twitch・YouTubeのライブ配信者を支援する拡張プラットフォーム」で、 YouTube のスーパーチャットと類似した投げ銭機能などがあります。 この Doneru を、 VTuber 事務所「にじさんじ」に所属するライバーが使用したことがきっかけとなり、 Doneru が YouTube の規約に反するのではないかとネット上の一部で騒動が起きています。 本記事の目的は、この騒動に関する事実、デマ、私なりの意見をまとめて論点を整理することです。

最終的な私の意見の要点は:

  • Doneru は規約、倫理的には何も問題無いと考えられる
  • Doneru を使うことで YouTube から BAN されるとは考え難い
  • 現時点での Doneru は規約以外の面で問題が多く、信頼して実用できるレベルではない

起きた出来事

Doneru は 2019 年 7 月末にオープンβ版としてリリースされた新興のサービスです。 その後少し経って 9 月 12 日、「にじさんじ」所属の御伽原江良さんと椎名唯華さんが Doneru を導入した配信を行いました。 (このうち、御伽原江良さんの配信アーカイブは現在でも閲覧可能です。) 両名は「にじさんじ」の中でも特にフォロワーが多いためこの配信が注目を浴び、 Doneru や「にじさんじ」運営に対して様々なお気持ち表明をなさる方々が現れています。 その中でもよく見かける批判は概ね次の通りです:

  • YouTube の規約に反しているから、使用者が BAN されるのではないか
  • 投げ銭に添えられる音声読み上げや動画が悪用される
  • セキュリティ上問題がある

これを受けて、 Doneru の公式 Twitter アカウントから回答がなされました。

しかし、サービスの正当性の確認がリリース前にされていなかったことが再び批難を浴び、更なる騒動に発展しています。

Doneru 導入の背景

そもそも YouTube には、視聴者から配信者へ投げ銭できるスーパーチャット機能が既にありますが、あえて外部の投げ銭サービスを利用するメリットは何でしょうか? 収益化の面で主に以下の 2 点が挙げられます。

  1. スーパーチャットは手数料として 30% が YouTube 側に取られる。外部サービスならこれより安い手数料で済む。
  2. 収益源が YouTube だけに集中するのを回避し、リスク分散できる。

メリット 1 は既に有名な話なので、あえてここで詳細に取り上げることはしません。 一方でメリット 2 は比較的話題に上っていませんが、非常に重要です。

YouTube の収益化に対する締め付けは年々厳しさを増しており、規約違反と判定されて収益化を解除される例が頻発しています。VTuber 界での事例の一部を挙げると:

  • キズナアイさんのチャンネルが無警告で BAN されたがすぐ復活した1
  • 鈴鹿詩子さんのゲーム配信が「ヌードや性的なコンテンツ」と判定されてチャンネルが無警告で BAN された2
  • ベイレーンさんが「繰り返しの多いコンテンツ」と判定されて収益化解除された3
  • ふぇありすさんが「性的満足を意図したコンテンツ」と判定されて収益化解除されている4

これらの例は、中身をよく見てみればどんな人間でもおかしな判定だとわかるものです。 しかし YouTube では、コンテンツの最初の審査を bot が担当しているため誤審査がよく起こります。 異議申し立てをすれば人間による再審査が行われますが、申し立てができるのは一ヶ月後で、審査が覆る確率もそれほど高くないようです。 つまり、真っ当なチャンネルがある日突然に規約違反と判定されて、その後少なくとも一ヶ月間は収入が大幅減、最悪引退に追い込まれるリスクがあります。

YouTube 外部のサービスに収益源を分散しておけば、こうしたリスクをある程度軽減することが可能です。

ネット上の的外れな批判

今回の件について SNS などを見ていると、一部真っ当な批判もありますが、大半は全く見当違いな言いがかりやデマで溢れています。 そこで、明らかにおかしいと根拠を持って否定できる意見を以下で取り上げ、私なりの回答を述べます。

YouTube で配信しているのだからスーパーチャットを使え

配信者にそのような義務や義理はありません。理由は主に以下の 3 点です。

  • スーパーチャットは独立したオプション機能であり、使用するか否かはユーザー(配信者)の自由である。
  • YouTube利用規約収益化ポリシーには、外部サービスによる収益化を禁止するような条項は無い。
  • スーパーチャットの使用をもし強制すれば、それは巨大プラットフォームの力を濫用した囲い込みであり、市場競争を妨げる。

スーパーチャットを使わないのは、場所代を払わないタダ乗り行為である

「スーパーチャットを使わない」ことと「YouTube の利益に貢献しない」ことは全く異なります。 YouTube の主な収益源は、広告費と、ユーザーが生み出す行動履歴などの膨大な個人データです。 これはスーパーチャットの有無とは関係なく YouTube 上で大量の視聴者を集めれば必ず発生するものなので、そもそもタダ乗りは不可能です。

Doneru は中間マージンを取っているが Streamlabs はそうではないので同じ座組ではない

今回の件で YouTube 側にとって問題となり得るのは、外部サービスによってスーパーチャットの収益機会が失われるというただ一点だけであり、 その点において Doneru も Streamlabs も共通しています。中間マージンの有無やビジネスモデルの違いは問題に関係ありません。

Doneru は YouTube の承認済みクラウドファンディングサイトに記載されていないから使用できない

このページにあるのは、動画の再生終了直前に表示されるエンドカードにリンクとして設定できるサイトの一覧です。 ここに記載されていないサイトでも、動画内や概要欄でページを宣伝するのは問題ありません。 (もし禁止されていたら、いわゆる企業案件のアフィリエイトリンクなどは全て規約違反ということになります。)

Doneru を使うと YouTube アカウントが BAN される

上述したように Doneru の使用は YouTube の規約に反していないので、特に BAN される理由が考えられません。

Doneru ではなく YouTube 公式に承認されている Streamlabs を使え

Streamlabs の donation page は日本語表示に対応していません。

にじさんじ」運営は所属ライバーのことを考えず拝金主義に走っている

ライバーのことを考えるのであれば、ライバーの収益を増やす/安定化させるのは最重要事項です。

Doneru の問題点

Doneru が規約や倫理的には問題ない旨をここまで説明しましたが、それ以外の部分で後述する大きな欠陥を抱えています。 ただし、対処策が明らかな問題ばかりなので、今後の修正により完成されたサービスになる可能性はあります。

投げ銭時のメッセージや音声読み上げが荒らしに悪用される

通常のチャットログに埋もれて流れやすいスーパーチャットと違って、 Doneru の投げ銭に添えられるメッセージは専用の枠に表示されかなり目立ちます。 メッセージの音声読み上げがオンにされていれば尚更です。

これを悪用してセンシティブな内容を配信に投げつけることが可能で、実際に「にじさんじ」のライバーが Doneru を使った際にこうした荒らし行為が見られました。

サイトの作りが全体的に雑で、セキュリティを考慮していない可能性が高い

存在しない URL を指定すると、通常はそのことを示す 404 エラーページが表示されますが、 Doneru のサイトではエラーページの設定が正しくされておらず、本来ユーザーに対して表示すべきでないシステムログが露出しています。 例えば https://doneru.jp/example にアクセスすると、以下の内容のページが表示されます。

Not Found
404

NotFoundError: Not Found
    at /var/www/doneru-dev/app.js:95:8
    at Layer.handle [as handle_request] (/var/www/doneru-dev/node_modules/express/lib/router/layer.js:95:5)
    at trim_prefix (/var/www/doneru-dev/node_modules/express/lib/router/index.js:317:13)
    at /var/www/doneru-dev/node_modules/express/lib/router/index.js:284:7
   ⋮

三行目以降の部分はスタックトレースと呼ばれ、開発者がエラーの原因を特定するために用いるものです。 スタックトレースはユーザーが見ても理解できるものではなく、またシステム内部の情報を悪意ある攻撃者に与える恐れがあります。 そのため、製品段階のサイトではこのようなシステムログをユーザーに一切見せないのが常識とされています5

この他にも、フォームの入力内容を検証せずに送信するなど多数の問題が挙げられます。

個人的な感想

YouTube 一強の状態でクリエイター側が不利益を被っている中、それを解決できそうなサービスが現れるのは嬉しい限りです。 その際に何か問題点が想定できるのであれば、ただの推測で終わらせずに実験で検証すべきだと考えています。

「わざわざ金を払ってまで配信で嫌がらせをする生物が多くいる」というのは検証が必要な仮説だと私は思っていたのですが、 SNS 上の皆様には至極当然で確実に予測できる事実だったようです。